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製品情報

利用事例8

応答曲面法によるエンジンマウント最適化システム

(株)MMCコンピュータリサーチ/丸五ゴム工業(株)

FF 横置きパワートレーン搭載車において、エンジンマウントが関与するNVH 性能は、アイドル振動、乗り心地、ショック、こもり音と多岐に亘る。これらの性能予測には、車体まで含めた詳細な解析モデルが必要となり、設計初期段階では十分な検討ができない。

このような問題を解決するために、MMCコンピュータリサーチと丸五ゴムのグループはパワートレーン系の振動特性を解析する専用システムとDesignDirectorを組み合わせて、設計初期段階で最適なエンジンマウントレイアウトやバネ定数を算出するシステムを開発した。本システムにより、従来試作車ベースの試行錯誤によるエンジンマウント改修作業の大幅な削減が可能となった。

システムの概要


図-1 システムの概要

本システムは、図-1 に示すように最適化計算部、解析部、後処理部の3つのモジュールから構成されている。最適化計算部にはDesignDirectorを利用し、解析部にはパワートレーン系の振動シミュレーターである6自由度剛体シミュレータ、後処理部には最適化されたエンジンマウントを検証するための伝達関数合成法によるシステムシミュレータを備えている。DesignDirectorは実験計画法(DOE)に従って設計変数の組み合わせを作成し、それに対し6自由度剛体シミュレータが特性値を計算する。その計算結果からDesignDirectorは設計要因と特性値の関係を多項式で近似した応答曲面法(RSM)を生成し、逐次2次計画法により各種制約条件下における目的関数最小化問題を解いている。

図-2 6自由度剛体シミュレーター


図-2 6自由度剛体シミュレーター

6自由度剛体シミューターはエンジンとトランスミッションからなる剛体と、それを支持する4つのマウントで構成されている。各マウントは3方向のスカラーバネと左右軸まわりの傾角を持つ。また、外力はクランク中心に上下力とトルク変動を与えることが可能である。このシミュレータによりアイドル振動、乗り心地、ショック、こもり音、軸一致度などを評価することができる。

伝達関数合成法


図-3 システムモデル作成プロセス

本システムでは最適化されたエンジンマウントを検証する目的で、伝達関数合成法によりシステム全体の振動特性を予測することができる。部分構造合成法の一種で各コンポーネント単体の伝達関数からシステム全体の伝達関数を算出できる。パワートレーンが解析モデル、車体が実験データの場合でも予測可能である。

最適化事例1 : エンジンマウントばね定数の最適化

エンジンマウントに起因する振動騒音問題を低減する目的でエンジンマウントのばね定数の最適化を実施した。評価特性としては下記の4項目に着目した。

アイドル振動 IDLE=Σ ψifi Minimize
 fi:パワートレーンのロール方向に20Hzの単位トルクを作用させたときの各マウントの伝達力
 ψi:車体曲げモード
乗り心地(上下剛性) RIDE ≧ Lower Limit
ショック(ロール剛性) SHOCK ≧ Lower Limit
こもり音 BOOM=Σ fi2 ≦ Upper Limit

設計要因

設計要因を各マウントの上下、前後ばね定数と左右軸回りの傾角併せて10 個とした(図-4)。また各設計要因は3水準とし、水準値は表-1に示す値に設定した。図-5 には今回使用した3 水準系のL27 (313 )直交表を示す。


図-4 ばね定数最適化例で取り上げた設計要因

表-1 設計要因の水準値
  第1水準 第2水準 第3水準
ばね定数(現状との比) -20% 現状 20%
傾角(現状との差) -22.5゜ 現状 22.5゜


図-5 L27(313)直交表

推定式の精度

27通りの設計変数の組み合わせに対し、6自由度剛体モデルにより特性値を計算し応答曲面を作成した。図-6 にアイドル振動(IDLE)の解析値と推定値を示す。両者は、良く一致していることが判る。


図-6 アイドル振動(IDLE)の解析値と推定値の比較

最適化計算

目的関数を20Hzでのアイドル振動(IDLE)の推定式とし、制約関数に乗り心地(RIDE)とショック(SHOCK)の推定式を用いた。最適化計算の結果を表-2に示す。

表-2 エンジンマウントばね定数の最適化結果
設計要因 設定10要因
目的関数 20Hzにおけるアイドル振動(IDLE) → 最小
挙動制約条件 乗り心地 (Ride) ≧ 現状
ショック (Shock) ≧ 現状
側面制約条件 ばね定数:現状の±20% 、 傾角:現状の±22.5°
最適化結果 目的値 : IDLE=0.35[dB]
変数値 : Head_KX=1.20,Head_KZ=1.06,TM_KX=0.80,TM_KZ=1.20,Front_KX=0.80,Front_KZ=0.89,Front_θ=-5.6°,Rear_KX=0.85,Rear_KZ=0.80,Rear_θ=+3.2°

最適化計算で得られた結果は近似解であるため、その結果を検証する目的で6自由度剛体モデルにより特性値の再計算を行った。その結果を表-3に示す。これより、ばね定数を最適化することで、乗り心地(Ride)の低下を伴うことなく約3dB のアイドル振動(IDLE)の低減が可能であることが判た。

表-3 最適化の効果
  アイドル振動 IDLE(dB) 乗り心地 Ride(N/mm) ショック Shock(Nm/rad)
初期状態 3.07 483.0 21.5
最適化後 0.35 514.4 18.2

最適化事例2 : エンジンマウントのレイアウトの最適化例

ばね定数の他にエンジンマウントのレイアウトも含め最適化を行った。設計要因は前述のばね定数の以外にマウントの取り付け点前後、上下座標(位置)を追加し、合計18要因となった。新たに追加された設計要因を図-7に示す。これらの要因は3水準とし、水準値は表-4に示す値に設定した。直交表はL81(340)を利用し、ばね定数と座標間に交互作用を設定した。

表-4 設計要因の水準値
  第1水準 第2水準 第3水準
ばね定数 (現状との比) -20% 現状 +20%
傾角 (現状との差) -22.5゜ 現状 +22.5゜
座標 (現状との差) -50mm 現状 +50mm

推定式の精度

レイアウト最適化の例では、要因間の交互作用の設定が推定式の精度に大きく影響した。図-8に解析値と推定値の比較グラフを交互作用がある場合と無い場合で示す。このグラフから、交互作用を設定することにより解析値と推定値の差が減少し、推定式の誤差が改善していることが分かる。従って、本事例では交互作用を考慮して得られた推定式を用い最適化計算を実施した。


(a) 交互作用を考慮しない場合


(b) 交互作用を考慮した場合

図-8 交互作用の影響

最適化計算

ばね定数の最適化と同様に、目的関数を20Hzでのアイドル振動(IDLE)の推定式とし、制約関数に乗り心地(RIDE)とショック(SHOCK)の推定式を用いた。最適化計算の結果を表-5に示す。この結果、すべてのマウントを前進させると特性が改善されることが分かった。

表-5 エンジンマウントレイアウトの最適化結果
設計要因 設定18要因
目的関数 20Hzにおけるアイドル振動(IDLE) → 最小
挙動制約条件 乗り心地 (Ride) ≧ 現状
ショック (Shock) ≧ 現状
側面制約条件 ばね定数:現状の±20% 、 傾角:現状の±22.5°、 マウント位置:現状の±50mm
最適化結果 変数値 : Head_KX=1.06,Head_KZ=1.01,Head_X=-12.1,Head_Z=32.5,TM_KX=1.20,TM_KZ=1.00,TM_X=-50.0,TM_Z=-50.0,Front_KX=0.89,Front_KZ=1.03,Front_X=-50.0,Front_Z=50.0,Front_θ=14.3°,Rear_KX=1.20,Rear_KZ=0.84,Rear_X=-50.0,Rear_Z=-26.2,Rear_θ=-1.7°

最適化の成果(運席床振動)


図-9 運席床振動の改善効果

最適化の効果を検証する目的で、伝達関数合成法による運席床振動の計算を実施した。パワートレーンには前述の6自由度剛体モデル。車体には実験モーダルモデルを使用した。図-9にパワートレーンロール方向に一定トルクを作用したときの運席振動の計算結果を示す。図より期待通りのアイドル振動低減効果が得られるとともに、レイアウトまで含めた最適化は、ばね定数のみの最適化以上の効果があり本手法の妥当性が裏付けられた。

まとめ

アイドル振動に重要な影響を及ぼす車体振動特性を考慮したエンジンマウント最適化システムを開発した。応答曲面の作成には実験計画法を使用することで、パラメータスタディを必要最小限に抑えられ、解析に不慣れな設計者でも短時間で最適なばね定数や位置を検討できるようになった。

応答曲面法では、近似式を使用するため、式の推定誤差が結果に大きな影響を及ぼす。推定式誤差を抑えるためには、設計変数の範囲をあまり広くしないこと、及び交互作用の適切な設定が必要である。

参考文献

畑・井出・三宅・坂根,自動車技術会2001年春季大会学術講演会前刷集(NO.23-01), pp.1-4 , 2001.

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